茶山台のポートボールチームの監督、市村剛さんが41年間願い続けた子どもたちの成長

皆さんは、ポートボールというスポーツをご存じですか?
2つのチームに分かれ、ドリブルやパスでボールをつなぎ、ゴールすることで得点が得られるバスケットボールに似たスポーツです。
バスケットボールは5人でプレイし、設置されたかごのゴールにボールを投げ入れるのに対し、ポートボールは台の上に立ったゴールマン、相手チームのゴールを阻むガードマンというポジションを加えた7人でプレイし、ゴールマンにボールを投げ渡すことでゴールとなります。
このポートボール、なんと堺市発祥のスポーツだと云われています。それもあってか、堺市では古くから堺市こども会育成協議会が中心となり、女子の公式スポーツとして盛んに取り組まれてきました。現在も約56チームが活動しています。
茶山台小学校にも、こども会が中心となったポートボールチーム「Smile」があります。監督である市村さんは41年間その指導に当たってきました。子どもたちへのポートボール指導とともに半生を過ごした市村さんに、これまでの軌跡と今後の展望をお伺いしました。
響く声と見守るまなざし
ポートボールチームSmileは、毎週木曜日・金曜日の夕方と、土曜日・日曜日の午前中(日曜日は15時まで)に茶山台小学校の体育館で練習しています。
訪れた2月のある土曜日は、翌日に6年生の卒業記念大会を控え、近隣のポートボールチームとの合同練習が行われていました。



体育館には、コート内を縦横無尽に駆け回る子どもたちの声と、ボールの弾む音、シューズが床をキュッキュと擦る音が響きます。市村さんは、ともに指導に当たる玉置コーチと、真剣なまなざしで練習を見守ります。

練習内容が切り替わるタイミングでは、適宜指導やアドバイスをはさみます。穏やかに声をかける市村さんですが、試合形式の練習に差し掛かると一転、緊張感が漂う指導が飛び交います。

市村さん:叱るのは挨拶しないとか、やる気のないプレイをしている時ですよ。
遊び半分でやっていると、けがにつながってしまいます。
挨拶や礼儀は、スポーツ以前に人として大切なことですので、そのあたりは厳しく伝えることもあります。
チームプレイでは、一人が手を抜くと、他のメンバーにも影響が及んでしまうんです。
特に引退試合を控えた6年生への指導には熱が入ります。一方低学年のメンバーに対しては、
市村さん:1年生、2年生はとにかくスポーツの楽しさを知って欲しいと思っています。
怒るようなことはあまりないですね。
と顔をほころばせます。

それが伝わっているのか、1,2年生のメンバーは、試合には出ていなくても、コート脇から大きな声で応援歌を歌い、先輩たちに必死のエールを送っています。1年生から6年生まで、全員が一丸となって練習に臨んでいることが伝わる光景でした。

どんな子でも参加できる ポートボールに魅せられて
市村さんが、Smileの指導に携わるようになったのは、41年前。茶山台に引っ越して来た頃にさかのぼります。スポーツが好きだった市村さんは校区の大人たちのソフトボールチームに加入しました。その時のチームメイトがポートボールの監督をしていたことから声をかけられ、手伝うことになったのだそうです。

市村さん:私は鳥取県の倉吉市の出身なのですが、私の地元にもポートボールのチームがあり、小学生の頃に所属していました。ポートボールはあまりメジャーなスポーツではないのに、堺でも取り組まれているのだと驚きましたね。
中高時代もバスケットボール部だったので、経験が生かせるなら、お手伝いさせていただこうと思って。ちょうどその頃私の娘もチームに入って活動していました。
現在は少子化に伴い、茶山台小学校区のチームはSmileだけですが、当時は単位自治会ごとにチームがあり、校区内だけでも6つのチームがあったのだとか。
市村さん:校区で大会を開催できていたので、子どもたちは楽しめていたと思います。
ほかにもソフトボールや綱引きのチームもありましたが、子どもが少なくなり、なくなってしまいました。
市村さんは、自身のお子さんが卒業してからも、チームの指導を続けてきました。その理由について、「ポートボールのおもしろさに魅せられたから」だと語ります。
市村さん:バスケットボールは固定されたゴールにボールを入れないといけませんが、ポートボールは、ゴールマンにボールを投げ渡すので、得点につながりやすいのです。もちろんボールをキャッチする技術は必要となりますが、ポートボールは、バスケットボールに比べて、小学生でも取り組みやすいスポーツです。
コートで走り回るには体力が必要ですが、体力に自信がない子や、スピードのない子でもゴールマンやガードマンのポジションであれば参加できる。どんな子でも参加できるという点が、ポートボールの何よりの魅力だと思います。

小学生時代に自身がプレイしていた時はもちろん、ポートボールの魅力は指導者となったことで、より強く感じられたと言います。
市村さん:団体競技なので、チーム一人ひとりのつながりが大切になるスポーツです。
選手同士で連携がうまくいった時や、練習が実を結んで試合で結果を出せた時の喜びを、子どもたちに体験して欲しいんです。何より、子どもたちの成長する姿に、私自身が元気をもらっています。
保護者と指導者が一緒になって育む
伝統あるチームSmileですが、長く続ける中で直面している課題もあります。子どもが減っているので、学年ごとにメンバーの人数にばらつきがあるのです。過去には、6年生が全くいないこともありました。今年度は6年生が7人いましたが、次年度の新6年生(現5年生)は1人なのだといいます。
市村さん:やはり6年生中心のチームと、5年生や3、4年生が中心のチームでは戦力が全然違います。
先を見越したチーム運営が必要だと考え、今年に入ってからは、これまでの週末に加えて、平日の練習も増やしました。Smileの練習量は他のチームに比べても多い方だと思います。



練習を増やすにあたっては心配の声もあったそうですが、できる人だけでも参加してもらえたらとの思いで挑戦を開始しました。
市村さん:40年もやっていると、子どもたちはもちろん、保護者との感覚も違ってきます。年代が離れている分、ギャップが生まれる。それを考えながら指導するのは大変です。
Smileの場合は保護者の皆さんが私たちの指導方針をある程度理解してくださっているので、感謝しています。運営についても実務面や庶務業務は父母会が中心に行っているので私と玉置コーチは指導に専念できています。
私が厳しく指導した後に、玉置コーチや保護者の方がフォローしてくださっていることもあり、協力して子どもたちに関わることができていると感じます。

選手や家族はもちろん、指導に当たる監督・コーチもポートボール中心の生活を送っています。その熱さの源泉はどういったものなのでしょうか。
市村さん:やはり中途半端にやりたくないんです。子どもたちの成長のために、やれることはやりたいとの思いで走り続けてきました。
一人ひとりのいいところを引き出す
40年以上、子どもたちの成長を願い奔走してきた市村さん。今後はどういったことを目標に活動していかれるのでしょうか。
市村さん:最近は子どもも少なくなっていますし、入学や卒業に伴い、毎年メンバーも替わります。チームとしては、その時々のチームカラーや戦力などを考え、子どもたちのいいところを引き出しながらやっていきたい。
もちろんスポーツなので、勝ち負けにもこだわりながら、実力も付けていきたいですね。勝って、チームメイトと喜びを分かち合えるようなチームにしたいです。
指導者としては、たくさんの人にスポーツの楽しさを知って欲しいと思っています。最近は、親も子どもも、仕事や習い事などで忙しくて、なかなかスポーツチームに入るのは大変だという声も聞きます。
お子さんにやりたいという気持ちがある限りは、スタッフでフォローできることはしていきますので、ぜひたくさんの人にチームに入ってもらいたいですね。みんなでやると楽しいですから。
市村さんから伝わってきたのは、「スポーツが大好きでその魅力を伝えたい」という気持ち。そして「スポーツを通じて、子どもたちの心身を育みたい」という強い思いでした。練習を増やすこと、熱意を込めて指導をすること、勝ちにこだわって執念を燃やすこと。すべては子どもたちに、それらをとおして成長して欲しいという深い愛情に端を発しています。
かつて茶山台校区でポートボールチームに所属していた方にお話を伺うと、当時のことを「習い事というよりは、自分たちの住むエリアを背負っているような感覚だった」と振り返っていました。当時は単位自治会ごとにチームがあり、試合の前日には、仲の良いクラスメートとも、「明日の試合は負けへんからな」と言い合い、コートでは忖度なく、真剣に戦っていたのだそうです。
地域の大人に厳しくも温かく指導を受け、一つのことに一生懸命に打ち組む経験は、地域の人々に見守られ、その地域を愛する気持ちにもつながっているのではないでしょうか。
これまで指導を受けてきたお子さんたちは、市村さんの目指した「スポーツを通じて、心身を育む」を体感されてこられたのではないかと感じました。
誰も取り残さず、全員が参加できるポートボールというスポーツをとおして、一人ひとりが成長し、良さを活かして欲しい。市村さんはそれを願い、コートに立ち続けておられるのだと思いました。
ちなみに、練習の翌日開催された南ブロックポートボール卒業記念大会では、9チームが参加する中、なんと茶山台校区のSmileが優勝したそうです!!
6年生の皆さん、優勝、そしてご卒業、本当におめでとうございます。
ポートボールで築いた思い出と粘り強さで、中学校生活も頑張ってくださいね。
<ライタープロフィール>
中村彩理 Nakamura Sairi
南大阪で生まれ南大阪育ち。長年堺で働き、結婚を機に堺市で暮らし始める。現在は小学生の子育て中。2024年からライターとしての活動を開始。福祉関連の記事を執筆するとともに、noteなどで自身の体験も発信している。
